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– wadでの個展を終えて –

更新日:7月15日

本当は、もっと早く書いておきたかったのですが、

気持ちの整理に少し時間がかかってしまいました。

個展が終わってからも、日々の余韻が静かに残っています。

今日は少しだけ、そのことを綴らせてください。


wad個展の風景
wad個展の風景



今回のwadでの個展は、5年ぶりの開催でした。



数年前、夫は制作の多忙さから心身のバランスを崩し、


「もうしばらく仕事は受けないでほしい」


と、私に言いました。


その頃の私たちは、誰にも会わずに、

静かに暮らせる場所を求めて今の住まいを選びました。



今の暮らしは、小さな別荘地の森のなか。

小鳥のさえずりに耳を澄ませ、木々からの瑞々しさを日々受け取るような生活です。

夫の器づくりも、そうした自然の空気を内包したものを目指してきました。



器をつくることは、夫にとって喜びであると同時に、時に苦しさを伴うものでした。

少しずつ気力を取り戻し、再び土に向かうようになってからも、

制作を喜びと感じられるようになるまでには、時間が必要でした。



そうしてゆっくりと歩きながら、気づけばまたご縁をいただくようになり──

しばらくして、今回の個展のお話になったのです。



場所はwad。



立ち上げ前からのお付き合いである、小林さんからのお声がけでした。

普段の個展や企画展は、

全体のバランスやテーマに沿うことをかなり意識して制作をしています。


小林さんとの長年の信頼関係があったからこそ、

今回、夫は誰の顔色も気にすることなく、バランスもテーマも置いておいて

自由に、思う存分、制作に向かうことができました。



こんな経験は初めてでした。



それはまるで、ずっと静かに燃えていた小さな火が一気に大きくなったような、

抑えていた制作への喜びがとうとう爆発したような、そんな瞬間だったと思います。



そして、小林さんが一つ一つの器の本質を見抜き、空間として形にされたのです。

私たちは初日オープン前の静寂の中、感動に身を委ねていました。


wad個展の風景
wad個展の風景


5年離れた意味がそこに感じられました。

そしてその空間には、希望がありました。



今の主流のような、写真映えもしない。 目を見張るような釉薬も、目立つ装飾も施されていない。 一目で土の味わいがわかるような道も選んでいない。 そして、どこかの古い器の「写し」でもない。

夫の器は、どこにも属していません。

本人の内面を表すかのように、控えめな芯が通ったもの。 ただ静かに、自分の信じるかたちを続けてきました。 だから伝わるのに時間がかかる。

それは、一瞬で目を奪う器ではないのかも知れません。

けれど、暮らしの中に置かれたとき── 食べ物が盛られ、キャンドルが灯り、小さな花器が横にあるとき── 器は音もなく、その人の生活と響き合い、そっと輝きはじめる。

手に持った時、器の裏まで見たときに初めてわかるものがある。

派手さではなく、余白の美しさ。 時間はかかるけれど、確かに、伝わる力がある器──


小林さんの手によって作り上げられた空間で、それをそっと感じられたのです。



呼吸をする器たちは、どこか幸せそうに見えて、それに呼応するように、


海外から8年越しで想い続けてくださった方、

制作をやめていた「コシキ」を8年掛けて待っていてくださった方、

たくさんの器をテーブルに抱えて見比べながら1時間も悩む方、

オープン前に並んでお待ちくださった方、

そして、はじめて手に取ってくださった方たちが、


手触りや裏の仕上げまでも丁寧に見て、器の向こうにある気配を感じてくださいました。


あの会場で交わされた言葉やまなざしのひとつひとつが、

静かに、でも確かな力で、夫の背中を押してくれました。



昇華できたものが形になり、手応えとしてまた自分に戻って来てくれたこと──

心の奥では、声にならないほどの喜びがあるのに、

でも、背中からこぼれてくるのは、風にふれるような、ささやかなあたたかさでした。



これからの夫が、そんな気配を土に託していけるように、

私はただ静かに日々を整えていきたいと思っています。



コメント


​ 森 ト 庭 ト

 -utsuwa kobako-

      


Matsuzawa,Kato-shi,Hyogo
 

utuwakobako@gmail.com

​陶芸家・竹口要(たけぐちかなめ)の公式サイト。兵庫県の工房「森ト庭ト-utsuwakobako-」より、器のある静かな暮らしをお届けします。

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