工房で過ごす、二つの世界
- utuwakobako
- 9月8日
- 読了時間: 3分
更新日:9月10日
工房の扉を開くと、静寂の中に土の匂いと木の机のざらつきが漂っています。
外から差し込む光がゆっくり混ざり合い、空気がほんの少し揺れる。
今日も、何かが生まれそうな予感が工房に満ちています。
ここで過ごす時間は、POOL+の制作とennen.(中国)の企画展の制作──
二つの世界が交錯する日々の始まりです。

POOL+の制作
POOL+さんの企画展では、制作の方向性を一任されました。
夫の手は迷いなく土に触れ、作る歓びが「指先から器へ、そして空間へ」と広がります。
器に対する評価や不安も、今ここで生まれる時間の前では霞みます。
手を動かす歓びそのものが、制作の中心にありました。
ennen.での挑戦
一方、ennen.さんの企画展では、先方の希望に沿った器を制作しました。
「リクエスト表」が提出されましたが、
必ずしもその通りに作る必要はない、と言われていました。
何年も前に、受注生産は停止しています。
個展や企画展と並行してお店ごとに指定された制作を行う流れは異なり、
結果として4~5年お待たせすることになりました。
先方にもご迷惑をお掛けし、
夫自身も「待たせている」というストレスで日常生活に強い影響が出ていました。
こうした経緯から、現在はこのような制作の仕方はしていません。
先方からも「リクエスト通りに作らなくても構わない」と言っていただきました。
それでも夫は
「せっかくなら、お気持ちに応えたい」
と考え、リストの全てを漏れなく制作することにしました。
バラバラな制作の連続
POOL+さんの制作のように一任される場合とは異なり、
工程も土の色もバラバラな制作の連続です。
その分、別の種類の手間と集中力が必要になります。
この「バラバラ」「別の種類」というのが、かなりの難問なのです。
それでも、わざわざ打ち合わせに来てリクエストしてくださったお気持ちに応えたい。
その思いは、工房の夜の光や指先の緊張に表れていました。
二つの世界を同時に生きる日々
二つの異なる世界を同時に生きる日々。
納期は完全に重なり、新しい挑戦のはじまりになりました。
二か月近く、徒歩1分の家に帰ることもままならず、
工房で寝泊まりしながら手を動かす日々。
生活は明らかにまともではありません。
それでも夫は作る歓びを胸に、淡々と日々を送ります。
外の風、夜の街灯、朝の光──
すべてが制作のリズムとなり、夫の一部になっていました。
疲労の先にある土や光、手の感触のわずかな変化は、
器の表情として静かに宿っていたように思います。
完成した器に込めた想い
完成した器は、形や色の美しさだけでは語れません。
積み重ねた時間、試行錯誤、歓び、葛藤、挑戦──
器は多くを語らなくても、手に取れば確かに伝わるものがあります。
器を通して、その何か一つでも皆さまに届けられたなら、
それが私たちにとって何よりの歓びです。
いよいよ9月20日から、上海で展覧会が始まります。
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